「熟議」の意義

源島 穣 先生

この授業では、地域(特に山形・東北地方)の課題について「熟議」というスタイルで話し合い、解決策を考案します。2022年度は公共事業、外国人労働者、地方都市に関する課題を熟議しました。

「熟議」とは、課題に対する正確な情報を前提に、参加者間の意見共有を通じて、解決に向けた合意を形成していく議論のあり方を意味します。熟議にはなぜ「正確な情報」が必要なのでしょうか?世の中にあふれる「解決策」(SNSでよく目にする「○○より100倍効果あり!」「とりあえず○○したけりゃ○○しろ!」みたいなノリ)は根拠不明の情報に基づくことが多いからです。正確な情報に基づかなければ正確な解決策を導けないのです。

くわえて、熟議ではなぜ「合意を形成」する必要があるのでしょうか?社会には様々な立場の人がいるからです。老人に予算を使いすぎているから、年金を削減して子育てに予算を回したとします。この場合、ひと月10万円以下しか年金を受給していない人(女性の約半数が該当すると言われています)は生活できるでしょうか?高齢で病院にかかる機会も多いのに。様々な立場の人々にとっての解決策を意味する、合意の形成が必要なのです。

以上のように、この授業では解決策よりも、熟議という解決策を導くまでのプロセスに重きを置いています。AIにまかせて迅速に課題を解決するのが時代の流れにも思えますが、膝を突き合わせて語り合う古くさいスタイルの方が、地域の課題に対する理解を深められるだけでなく、情報の客観的な取捨選択、他者との協調性の向上をも見込めるように思うからです。

「熟議する」ことを通して学んだこと

人文社会科学部

石川 舞桜

「地域の課題を熟議する」は「共生を考える」の講義で、人文社会科学部の源島先生が開講しており、地域に混在している政治課題を題材に、人と人の共生が可能になる政策について学生同士が熟議する講義です。私は、多文化共生や外国人労働者の問題、地方の過疎問題について興味があり、この講義を履修しました。

講義形式としては、ほとんどが対面で、グループで熟議するテーマの事前学習の時にはオンデマンドの場合もあります。

この講義の魅力は、地方の政治的課題について学生同士で「熟議する」ことです。恥ずかしながら、私は授業を履修する前まで、この言葉と「議論」や「ディベート」といった言葉の意味の違いを知りませんでした。しかし、講義を通して、自分の意見を一方的に述べたり、相手の意見と自分の意見をぶつけて勝敗を決めたりする他の話し合いとは違い、「熟議」とは意見を共有して、問題の解決に向け、自分たちの意見を合意形成していくことだと身をもって学びました。

熟議することを通して、より広い視野で問題に対して向き合うことができ、自分も他の人も納得できるような意見へ再形成する難しさと、合意形成できた時の達成感を知りました。また、実際に政策を実施する際にも、政策のコストや仕組み、実現可能性を考えることももちろん必要ですが、かかわってくる当事者たちを納得させることが最も重要で、問題解決のために政策を実施する意義だと講義を通して学びました。この講義は、より自分の視野を広げたい人、実際の問題をより深く学び、自分事として捉えたいと考えている人にぜひ履修していただきたいです。