「わからないこと」を楽しむ

学士課程基盤教育院長

千代 勝実

これからみなさんは大学でさまざまなことを学んでいくのですが、小中高を通して学んできたやり方とは、少し異なっています。高校までの学びは、計算ドリルや受験勉強を思い出してもらえばわかりやすいのですが、「わからない」ことを「わかる」ようになるために、繰り返し「わかる」まで理解していきます。学びやすいように答えが用意されている問いに取り組めるようになっているのですね。

大学での学びはよく言われるような「答えがない問いに取り組む」ということではありません。そもそも、我々の生きている世界では、わかっていることやすんなり理解できること、答えが出せることの方がはるかに少ないのです。いろんなことを学んでいくほど、自分の知識が織りなす世界が広がっていくほど、「わからないこと」ばかりだと気がつきます。例えていうなら、成長するにしたがって、行ったことのない遠い国のこと、遠い星や銀河のこと、知覚できないミクロの世界のこと、あなたを取り巻く人々や社会のこと、そして自分自身についてすら、よくわかっていないことに気がつきます。それは「わからないこと」という知の地平線の向こう側まで、あなたの精神世界が広がったということです。逆に、何か特別な真実にふと気づいてしまったら、それはあなたの精神が「わかった」という牢獄に閉じ込められてしまったということです。

みなさんは、私たちと大学で「わからないこと」との付き合い方、楽しみ方を一緒に学んでいきます。みなさんがひとつ「わからないこと」を見つけたら、それは世界が広がった証拠です。「わからないこと」に対して恐れを抱かなくなったら、付き合い方がわかった証拠です。「わからないこと」をいろんな角度から眺められるようになれば、それは楽しみ方を知った証拠です。

「わからないこと」をゆっくり楽しめる場所、大学へようこそ。